ホーム > 消費生活・くらしの相談 > くらしの相談 > 法律相談・専門相談 > よくある相談 > 遺言・相続
最終更新日:2024年3月1日
ここから本文です。
この解説は、2019年9月、兵庫県弁護士会の監修を受け作成したものです。
相談が多いテーマの一般的な質問とそれへの回答の一例を示したものです。具体的な事情等によっては、この限りではありません。
(解説)
遺言の種類は、民法によって定められており、①普通方式の遺言と、②特別方式の遺言(特殊な状況下における遺言)に大別されますが、普通方式の遺言には以下の3つの種類があります。
遺言書は、法的効力を伴うものです。一定の形式を備えたものでなければ、遺言書として認められませんので、注意が必要です。
遺言をしたい本人の自筆による遺言です。作成の費用もかかりません。作成するに当たっては、(1)全文自筆(ワープロは不可)で作成されている、(2)作成年月日が正確に記載されている、(3)署名されている、(4)押印(認め印でも可能ですが、実印の方がいいでしょう。)されている必要があります。
しかし、全文の自書は相当な負担があることから、2018年7月の民法改正(この改正項目についての施行日は、2019年1月13日)により、相続財産の目録を添付する場合には、その目録だけは自書でなくてもよいものとされました。ただし、自書しない財産目録については、その各頁にも署名押印をすることが必要です。
遺言書の用紙については、特に決まりはありません。縦書き・横書きはいずれも可能です。自筆である限り筆記具にも制限はありません。ただ、鉛筆については改ざんのおそれがあります。
自らが作成しますので、遺言を作成したことや、遺言の内容を秘密にすることができますが、専門家の助言を得ないで独力で自筆証書遺言をした場合には、後日において、形式不備によって無効となったり、文意をめぐって争われる可能性があります。また、遺言書の保管者や発見者は、遺言者死亡を知った後、遅滞なく、被相続人の住んでいた地域を所管する家庭裁判所で「検認」の手続をしなければなりません。
[遺言書保管制度について]
従来、自筆証書遺言の保管者及び保管場所についてのルールはなかったので、一般的には、遺言者が自分で遺言書を保管したり、親族等に預けていたと思われます。「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が2018年7月に成立し、2020年7月10日に施行されることになりました。これにより、自筆証書遺言の遺言者は、法務大臣が指定する法務局に出頭して遺言書(無封のものに限る。)の保管を申請することができるようになりました。保管の申請がされた際には、遺言書保管官(法務事務官の中から指定された者)は、その遺言書が自筆証書遺言の方式に適合しているか否かについて外形的な確認をしたうえで、遺言書を法務局において保管をします。法務局で保管された遺言書については、家庭裁判所における検認の手続きが不要となります。この制度の利用については義務ではありませんが、自筆証書遺言をする限り、安全性を確保する観点から、この制度の利用が推奨されます。
遺言者が公証役場に出頭して、公証人に作成してもらう遺言です。相続について利害関係のない証人が、2人以上必要です。遺言の対象となった財産等の価額に応じた手数料が必要です。
公証人が作成しますので、形式不備の心配はありません。その公正証書の原本は、公証役場に長期にわたって保管されます。「検認」手続の必要もありません。
秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしたうえで、遺言書の成立のみを確実に証明するためになされる遺言です。遺言書は、ワープロや代筆により作成することも可能ですが、必ず遺言者本人が遺言書に署名し、押印することが必要です。遺言者がその遺言書を封筒等に入れて、遺言書に押印した印章と同じ印章によって封印する必要があります。遺言者が、公証役場において、公証人と2人以上の証人の前にその封書を提出し、所定の手続きをします。公証人に対する手数料が必要です。封印した封書の状態で提出することによって、公証人や証人に対しても、遺言の内容を秘密にしておくことが可能です。しかし、遺言書の記載内容の不備によって後日の紛議が生じる可能性はあります。また、遺言書の保管者や発見者は、遺言者死亡を知った後、遅滞なく、被相続人の住んでいた地域を所管する家庭裁判所で「検認」の手続をしなければなりません。
(解説)
相続とは、死亡した人(被相続人)が生前に有していた権利義務を相続人が承継することです。誰が相続人(相続の権利を有する人)に当たるのかは、民法によって定められています。
相続財産は、被相続人が死亡時に有していた現金、預金、土地、家などのいわゆるプラスの遺産だけでなく、債務などのマイナスの遺産も含みます。
相続人が1人の場合(単独相続)には、その相続人に遺産全部が相続されます。相続人が2人以上の場合(共同相続)には、遺産の最終的な帰属を定める「遺産分割」の手続きが必要になります。もっとも、有効な遺言が存在する場合には、通常、その遺言によって遺産の全部または一部の帰属が定められていますので、その限度で遺産分割が不要になります。
2018年7月の民法改正(施行日2019年7月1日)により、遺言によって、法定相続分を超える遺産を承継した相続人にとって、その法定相続分を超える部分の権利取得を何人に対しても主張できるようにするためには、対抗要件の具備が必要になりました(例えば、遺言等により法定相続分を超えて承継された不動産について、これまでは遺言書があれば、登記をしなくても第三者に対抗できましたが、今後は登記をしないと、法定相続分を超える部分については第三者に対抗できないことになります。)。
また、相続開始後、遺産分割前に、共同相続人の一部が遺産を勝手に処分した場合(例えば、勝手に相続預金の払戻しを受けた場合)も、他の相続人の全員の同意があれば、その処分によって失われた財産についても現存するものとして遺産分割の対象にすることができるようになりました。
(解説)
被相続人の財産を相続人が相続によって承継する方法には、2通りのパターンがあります。一つは、遺言がある場合です。遺言があれば、原則として、遺言に従った処理がなされます。これを遺言相続といいます。
これに対し、遺言書がない場合は、民法で定められた相続人(法定相続人)が、民法で定められた割合に従って、遺産を相続します。これを法定相続といいます。
法定相続人の範囲につき、民法は、被相続人の配偶者は常に相続人になると定めています。さらに、一定範囲の被相続人の親族も、配偶者と並んで、以下の順序で相続人となるとされています。
なお、被相続人の子供や兄弟姉妹については、代襲相続という制度が設けられています。これは、相続人となるべき子供や兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡していたり、相続権を失った場合に、その子供が親の代わりに相続人になるというものです。
また、各相続人の法定相続分も、誰が相続人となるかによって変わってきます。
ただし、共同相続人間において話し合い(遺産分割協議)がまとまり、その全員が合意する限り、法定相続分によらなくてもよいことになっています。話し合いがまとまった場合には、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。
(解説)
2018年7月の民法改正(この改正項目の施行日は2020年4月1日)により、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合において、遺産分割、遺贈、死因贈与または家庭裁判所の審判のいずれかによって、配偶者が配偶者居住権を取得する旨が定められたときには、配偶者は、終身または一定期間、その建物を無償で使用する権利(配偶者居住権)を取得します。
また、配偶者は、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合において、前記の配偶者居住権を取得しないときであっても、一定期間(居住建物について遺産分割を必要とする場合には、遺産分割により当該建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで)に限り、居住建物を無償で使用する権利を取得します。これを「配偶者短期居住権」といいます。名前が似ていますが、「配偶者居住権」とは異なる種類の権利です。
(解説)
これまでは、夫婦間において居住用不動産について贈与または遺贈をした場合には、被相続人が異なった意思表示(相続財産に加算しない旨の意思表示)をしない限り、遺産分割における相続分の算定上、その不動産の価額を相続財産に加算する扱いになっていました。しかし、2018年7月の民法改正(施行日2019年7月1日)により、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方である被相続人が他の一方に対して居住用不動産(居住用建物またはその敷地)の遺贈または贈与をした場合には、被相続人は、その遺贈または贈与について、相続財産に加算しない旨の意思表示をしたものと推定されることになりました。もっとも、そのような贈与等であっても、その贈与等が他の共同相続人の遺留分を侵害する限り、遺留分侵害額請求権の行使は妨げられません。
(例)
相続人配偶者と子2人
遺産居住用不動産(持分2分の1)3000万円①
その他の財産2000万円②
配偶者に対する贈与居住用不動産(持分2分の1)3000万円③
(改正前)
相続財産①+②+③=8000万円
配偶者の最終取得分8000万円×法定相続分2分の1-3000万円=1000万円
1000万円+③=4000万円
(改正後)
相続財産①+②=5000万円
配偶者の最終取得分5000万円×法定相続分2分の1=2500万円
2500万円+3000万円=5500万円
(解説)
従来、遺産である預貯金は、共同相続の開始と同時に、法定相続分の割合に従って当然に分割され、その分割された債権が各相続人に帰属するという解釈が主流になっていました。しかし、平成28年12月19日の最高裁決定による判例変更によって、預貯金については共同相続が開始しても、当然には分割されず、遺産分割の成立によってその帰属が決定されるという解釈が採用されました。2018年7月の民法改正(施行日2019年7月1日)では、その最高裁決定の理論を基礎にしつつも、遺産分割成立前に相続人に生じがちな資金需要(相続債務の弁済、葬儀費用の支出、相続税の納税など)にも対応できるよう、他の共同相続人の同意がなくても相続人が、一定の範囲において、単独で払戻しを受けることができる制度を設けました。
払戻しを受けることができる金額の上限は、相続開始時における個々の預金残高のうち、当該相続人の法定相続分の3分の1であり、かつ、金融機関1法人を単位として150万円までです。なお、この制度を利用するには、金融機関に対し、相続の発生と自分が相続人である事実を証明して請求することが必要です。金融機関に相続の発生を隠して、無断で払戻しを受ける行為が正当化されるわけではありません。
(解説)
これまで、共同相続人が被相続人に対する療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、寄与分として相続分の修正が認められてきましたが、相続人でない者が特別の寄与をした場合にこれに報いる制度はありませんでした。2018年7月の民法改正(施行日2019年7月1日)により、相続人以外の親族であっても、相続人に対し特別寄与料として、金銭を請求することができるようになりました。
両者の間で協議が調わない場合には、家庭裁判所に申請をして特別寄与料について定めてもらうことができます。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき、または相続開始のときから1年を経過したときは、この請求ができません。
(解説)
自らの財産を自らの考えで処分したいと望むのであれば、あらかじめ遺言書を作成し、自らの意思を明確にしておく必要があります。遺言書を作成することにより、法定相続分を変更することができます。また、存命中であれば、何度でも内容を変更することができます。
次の場合には、遺言書を作成すべきです。
このように、被相続人の意思は、遺言書作成により尊重されることとなります。その一方で、民法は、法定相続人(兄弟姉妹を除く。)に対し、遺産の一定割合について価値を保持できる最低限の権利を保障しています。この権利のことを「遺留分」といいます。
(解説)
民法は、被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人を、遺留分権利者としています。
その上で、遺留分の割合につき、被相続人の両親や祖父母だけが相続人であるときは、相続財産の3分の1、その他の場合は相続財産の2分の1と定めています。具体的には、遺留分割合は以下のようになります。
(解説)
被相続人の遺言や生前贈与により遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害している者(生前贈与や遺贈を受けた共同相続人または第三者)に対して、遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができます。「遺留分侵害額請求」とは、遺留分を侵害した相続を受けた人に遺留分侵害額請求の意思表示をすることですが、それには、内容証明郵便が確実です。
なお、遺留分侵害額請求の権利は、相続開始及び遺留分を侵害する遺贈または贈与があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始や遺留分の侵害を知らない場合も、相続開始の時から10年で時効になりますので注意しましょう。
(解説)
自筆証書遺言の作成の過程で、字句を訂正したり文字を加除する場合には、①必ずその場所を指示したうえ、②これを変更した旨を付記して、③特にこれに署名し、かつ、④その変更の場所に印を押さなければならないと定められています。一般的な文書の加除変更のルールに比べて厳格であり、間違いやすいので、ページの単位で書き直した方が安全でしょう。特に、明白な誤記の訂正にとどまらない変更を加える場合には、書き直すことをお勧めします。
(解説)
遺言書の保管者または発見者は、遺言者死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に対して、遺言者の検認(けんにん)を請求しなければなりません。検認とは、いかなる用紙に、いかなる筆記具で記載されているか、その文章の内容や日付、署名等はどうなっているかを調べ、これを調書に記載しておく手続きです。
遺言者の保管者又は発見者が検認申請をするには、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍関係証明(戸籍謄本、除籍謄本、全部事項証明書)、相続人全員の現在の戸籍事項証明書(戸籍謄本)などを調達し、これを家庭裁判所に提出する必要があります。家庭裁判所は、検認期日を定めたら、法定相続人に対して期日を通知し、立ち会いの機会を保障します。
検認の対象となるのは、公正証書遺言と法務局で保管された自筆証書遺言を除く全ての遺言です。
遺言書が封入されているときは、遺言書の保管者または発見者は、これを勝手に開封せずに封入したまま検認期日に持参し、検認手続の席上において、これを開封する必要があります。
(解説)
公正証書遺言の作成を委嘱する遺言者の住所等には制限がなく、全国の公証役場で作成することができます。なお、国外において日本人が公正証書遺言をする場合は、日本の領事が公証人の職務を行うことになっています。
(解説)
公証人は、公証役場外に出張して職務を行うことができます。ただし、公証人の職務執行の区域は、その所属する法務局または地方法務局の管轄区域内と定められています。この範囲ならば、遺言者の病床などへの出張が可能です。公証人が役場外に出張した場合には、公正証書作成の手数料が1.5倍になるほか、日当及び交通費が加算されます。詳しくは公証役場にご確認ください。
(解説)
公正証書遺言作成の手数料は、遺言の対象となった財産等の価額に応じて算出されます。そのほかに、公証人が公正証書の正本または謄本を交付することに対する手数料も必要です。詳しくは公証役場にご確認ください。
(解説)
相続人は「証人」になることはできません。以下の人については、「証人」となることはできないと民法に定められております。
(解説)
遺言者は、いつでも自由に、過去に行った遺言の全部または一部を撤回することができます。最も推奨できる撤回の方法は、遺言書が前の遺言を撤回する旨の遺言をすることです。前の公正証書遺言を新たな自筆証書遺言で撤回したり、前の自筆証書遺言を新たな公正証書遺言によって撤回するというように、前後の遺言方式が異なっていてもかまいません。
一方、遺言者が、異なった時期に内容が異なる遺言をしたからといって、当然には新しい遺言によって、古い遺言が撤回されたことにはなりません。2つの遺言が共に有効である場合もあります。しかし、遺言者が前の遺言の内容に抵触する遺言をした場合には、その抵触した部分について、前の遺言が撤回したものとみなされます。とはいえ、後日において解釈上の疑義が生じるような曖昧な撤回の方法は好ましくありません。なお、遺言を撤回できる権利は、放棄できない権利とされますので、遺言中に、「この遺言は撤回しない。」とか「これが最後の遺言である。」と書いたところで、やはり撤回が自由にできます。
(解説)
共同相続が発生した場合、被相続人が残した遺産の分配について、相続人全員が話し合って、例えば「この土地はAが相続し、この銀行預金はBが相続する…」というように、具体的な配分方法を取り決める必要があります。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議が成立するためには、全相続人が遺産の分割方法について意見が一致することが必要です。必ずしも全相続人が一つの場所に集まって同時に意見を交わす必要はなく、「持ち回り」などの方法でもかまいません。遺産分割協議が成立したら、必ず「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書は、手書きでもいいですし、ワープロで作成してもいいです。また、縦書きや横書き、紙のサイズなどの決まりもありません。ただし、相続人全員の署名、実印(印鑑証明書を添付)による押印が必要です。
遺産分割協議は、たった1人の相続人でも反対すれば成立しません。このような場合には、相続人が家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる必要があり、調停では、裁判所の支援を受けて、当事者である共同相続人の意見の調整が行われることになります。そして、遺産分割について当事者の意見がまとまれば調停が成立しますが、調停が不成立になりましたら、審判の手続に移行します。審判では、当事者間において意見の不一致があっても、裁判官が遺産分割を決定します。
(解説)
相続人は、原則として、死亡した人(被相続人)が残した借金などの債務(相続債務)についても受け継ぎ、その支払義務を負担することになります。
そこで、民法は、相続人の意思によって、その負担から免れることができるように「相続放棄」や「限定承認」の制度を設けています。
「相続放棄」とは、相続人の意思によって相続そのものを拒否することです。これを行うことによって、相続人は、被相続人の資産も負債も承継しないという地位が得られます。「相続放棄」は、相続人が複数いる場合でも各相続人が単独で行うことができますが、自分のために相続が開始したことを知ったときから3か月(熟慮期間)以内に被相続人の最後の住所地を所管する家庭裁判所に申立てをしなければなりません。この3か月の期間を過ぎてしまった場合は「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります。なお、相続人が複数いる場合、熟慮期間は相続人ごとに個別に進行します。
「限定承認」とは、相続財産の範囲内で債務を清算し、プラスであればプラス部分を相続し、マイナスであれば相続財産を上回る債務は返済しなくてもいいという制度です。「限定承認」は「相続放棄」とは異なり、相続人全員で共同して行わなければなりません。また、相続開始を知ったときから3か月以内に被相続人の住んでいた住宅地を所管する家庭裁判所に申立てをしなければなりません。この3か月の期間を過ぎてしまった場合は「単純承認」とみなされ、限定承認ができなくなります。また、これらは、一度申立てが受理されますと取り消すことができませんので、注意が必要です。
なお、被相続人の最後の住所地が神戸市内の場合は、神戸家庭裁判所(本庁)(ただし、西区は神戸家庭裁判所明石支部)となります。まずはお電話でご確認ください。)
神戸家庭裁判所(本庁)