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電動機(モータ)には固定子(固定している部分)と回転子(回転する部分)があります。
直流電動機の場合は固定子と回転子の両方がコイルになっていて、双方のコイルに直流電流を流すことで電磁力を発生し、回転子が回転します。
さて問題はコイルに電流を流す方法です。固定子の方は簡単ですが、回転子のコイルに外部から電流を流すのは少々厄介です。固定された電極から動いて(回って)いる回転子に電気を送るために、直流電動機では「摺動接点」を使っています。カーボン等で作られた「ブラシ」という固定接点と金属製の整流子という移動接点を文字どおり「こすりあわせ」ながら電気を供給するわけです。
実際の回転子は複数のコイルで構成されているので整流子も複数あり、回転に伴ってブラシは次々と接触する相手の整流子を切り替えてゆくことになります。
実はこれが曲者なのです。電流を流しながら電気的に接触と解放を繰り返すので、その度にスパーク(火花)が発生します。このスパークのせいでブラシと整流子は激しく劣化し、限度を越えると交換・整備が必要となります。また、悪条件が重なると、この火花が原因で稀に「フラッシュオーバー」という故障を起こす可能性もあります。これが直流電動機の泣き所です。
このような欠点があるものの、基本的に電流を制御するだけで広い回転数領域で回転力(トルク)を維持できるという長所があり、古くから電車の駆動用に使用されてきました。
これに対し交流誘導電動機には、結論から先に言うと、この厄介な「ブラシ」と「整流子」がありません。固定子は普通のコイルですが、回転子の方は「かご形回転子」という単純な構造の部品になっています。この「かご形回転子」、ループコイル(環状コイル)の一種ですが、直流電動機のように外部から直接電気を流すことはしません。その代わり、固定子コイルの方に三相交流という交流電流を流します。直流ではなく交流というところがミソです。この三相交流が回転磁界という移動磁界を生み出し、その回転磁界にさらされた「かご形回転子」には電磁誘導作用によって、(電気的に接触していないにもかかわらず)電気が発生します。変圧器(トランス)と同じ原理です。発生した電気により回転子に電流が流れ、その電流と固定子の回転磁界との間に働く電磁力で電動機が回ります。
このように交流誘導電動機は、ブラシ・整流子が存在しないので交換・整備の手間がかからず、しかも構造が簡単なので直流電動機に比べ故障が少なく、軽量です。
ただし、この交流誘導電動機には特有のクセがあります。ある一定の回転数で回るのは得意なのですが、広範囲に回転数を変化させるのは苦手なのです。特に停止状態から高回転まで連続してトルク(回転力)を求められる電車には本来向いておらず、昔はほとんど用いられることがなく、「電車には直流電動機」というのが常識でした。
その流れを一気に変えたのが、VVVFインバータ制御装置の登場です。この制御装置を使って交流誘導電動機を回すと、交流誘導電動機がまるで直流電動機のように素直に回るようになるのです。VVVFインバータ制御装置が普及するにつれ、交流誘導電動機の活躍の場は広がり、今や新造電車のほとんどは交流誘導電動機です。